寛ぎブログ

2026.10.23更新

東洋医学・経絡とツボの物語

胃経 拾捌
乳根(にゅうこん)

乳房の張り・授乳期の不調と胸のツボ

足陽明胃経 ST18 / RUGEN

授乳中、乳房が張って痛む。

乳房の下のあたりが重い。 触れると痛みを感じる。

こうした症状があると、 母乳がたまっているのか、 乳腺に炎症があるのか、 心配になる方もいるでしょう。

今回ご紹介する 乳根(にゅうこん)は、 足陽明胃経の第18穴です。

乳房の下縁付近、 前胸部の第5肋間に位置します。

前回の乳中(ST17)は、 通常は刺鍼・施灸を行わない 特殊な経穴でした。

一方、乳根は伝統的に 乳房の張りや母乳の分泌に関する 症状などに用いられてきました。

ただし、古典的な使用例があるからといって、 現在の医学で治療効果が 確立しているわけではありません。

今回は乳根というツボを通して、 乳房の構造、授乳と乳腺炎、 乳房下部の痛み、鍼灸の安全性を 詳しく解説していきます。

一、乳根とはどんなツボ?

乳根は「にゅうこん」と読み、 国際的な経穴番号では ST18と表記されます。

足陽明胃経45穴のうち、 第18番目にあたる経穴です。

「乳」は乳房、 「根」は根元や土台を意味します。

乳房の下部に位置することから、 乳根という名称が用いられたと 伝統的に説明されています。

乳根の基本情報
  • 名称:乳根(にゅうこん)
  • 経穴番号:ST18
  • 所属:足陽明胃経
  • 胃経45穴の第18穴
  • 位置:前胸部、第5肋間
  • 前正中線から外方4寸
  • 女性では乳房下縁のしわの中央が目安
  • 男性では乳頭線と第5肋間の交点が目安

二、乳根の正確な場所は?

WHOの標準経穴位置では、 乳根は 前胸部の第5肋間、 前正中線から外方4寸 に位置します。

第5肋間とは、 第5肋骨と第6肋骨の間の空間です。

女性では、乳房下縁にある しわの中央が目安とされています。

男性では、乳頭を通る縦の線と 第5肋間の交わる位置が目安です。

乳房の形や大きさ、 体格などには個人差があります。

そのため、乳頭から 単純に一定の距離を測れば 正確な位置が決まるわけではありません。

膺窓(ST16)― 第3肋間↓ 乳中(ST17)― 乳頭中央 ↓ 乳根(ST18)― 第5肋間 ↓不容(ST19)― 上腹部

※足陽明胃経の経穴番号順を 簡略化したものです。 位置を確認するために 乳房を強く押す必要はありません。

三、乳中と乳根は何が違う?

乳中と乳根は、 名前がよく似た経穴です。

しかし、位置と伝統的な扱いには 明確な違いがあります。

乳中(ST17)

乳頭の中央

周囲の経穴位置を定める目印

通常は刺鍼・施灸を行わない

乳根(ST18)

乳房の下縁付近・第5肋間

伝統的には施術点として用いられる

胸膜・肺の損傷リスクに特別な注意が必要

大切なのは、 伝統的に施術可能とされていることと、 誰にでも安全で有効であることは 同じではないという点です。

乳根も胸部にある以上、 安全性を最優先に考える必要があります。

四、乳根の周囲にある組織

乳根は乳房下部の 胸壁に位置する経穴です。

この周囲には、 複数の組織が存在します。

① 乳腺と脂肪組織

乳房には乳腺、脂肪、 結合組織などが存在します。

乳房の大きさや形状によって、 皮下組織の厚さや位置関係が変わります。

② 大胸筋

大胸筋は胸の前面に広がる筋肉です。

腕の動きに関わり、 運動や仕事などによって 負担がかかる場合があります。

③ 肋間筋と肋間神経

肋骨の間には肋間筋があり、 胸郭の運動や安定に関わります。

肋間神経は胸壁の感覚などを伝え、 痛みやしびれに関係する場合があります。

④ 胸膜と肺

胸壁の深部には 胸膜や肺が存在します。

これらは胸部への刺鍼で 必ず考慮しなければならない構造です。

胸部の経穴は深部への刺激に注意

乳根の周囲では、 不適切な刺鍼によって 胸膜や肺を傷つける可能性があります。

自分で鍼を刺したり、 強い器具で押し込んだりしないでください。

五、授乳期に乳房が張る理由

授乳期には、 乳腺で母乳がつくられています。

母乳の産生にはプロラクチン、 母乳を送り出す反射には オキシトシンが関わっています。

乳汁の産生と排出のバランス、 授乳間隔、吸着の状態などによって、 乳房の張りを感じる場合があります。

しかし、張りがあるからといって、 必ず「母乳が詰まっている」 という意味ではありません。

乳腺周囲の炎症やむくみなども、 痛みや張りに関係することがあります。

そのため、乳房が張るたびに 強く揉んだり、 無理に母乳を出し切ろうとすることは 適切ではありません。

六、乳腺炎とはどんな状態?

乳腺炎は、 乳房の組織に炎症が起こる状態です。

授乳期によくみられますが、 授乳していない方にも 生じる場合があります。

主な症状には、 次のようなものがあります。

  • 乳房の痛み
  • 乳房の赤みや熱感
  • 腫れや硬い部分
  • 発熱や悪寒
  • 全身のだるさ
  • 授乳時の痛み

乳腺炎は炎症だけの状態から、 細菌感染を伴うものまであります。

病状によっては抗菌薬が必要となり、 膿がたまった場合には 乳房膿瘍への対応が必要です。

高熱や強い痛み、 急速に悪化する腫れなどがあれば、 速やかに医療機関へ相談してください。

七、乳腺炎は強く揉めば治る?

以前は乳房に硬い部分があると、 強く揉んで母乳を流すという 考え方が紹介されることもありました。

しかし、現在は 強いマッサージが組織を傷つけ、 炎症やむくみを悪化させる 可能性があると考えられています。

また、必要以上の搾乳によって 乳汁産生が増え、 かえって張りを繰り返す場合があります。

授乳期の基本的な考え方
  • 授乳は赤ちゃんの必要に応じて継続する
  • 無理に母乳を出し切ろうとしない
  • 乳房の硬い部分を強く揉まない
  • 必要に応じて冷却や休息を取り入れる
  • 授乳姿勢や吸着を専門家と確認する
  • 改善しない場合は医療機関へ相談する

授乳の中断が必要かどうか、 搾乳の方法、薬の使用などは、 個々の状態に応じて判断します。

「痛い部分を強く刺激すればよい」 という考え方は、 鍼灸のセルフケアでも避ける必要があります。

八、母乳が少ないと感じる原因

母乳の量が少ないと感じるときにも、 原因は一つではありません。

授乳回数や吸着の状態、 母乳の移行量、母体の状態など、 さまざまな要因が関係します。

また、乳房が柔らかいからといって、 必ず母乳が不足している わけではありません。

赤ちゃんの体重増加、 尿や便の状態、授乳状況などを 含めて判断することが大切です。

母乳量が心配な場合は、 助産師や小児科医、 母乳育児支援の専門家に 相談しましょう。

乳根への刺激だけで母乳量を 増やせるという確立した根拠はありません。

九、乳房の下が痛い原因は?

乳房の下部に痛みがある場合、 必ずしも乳腺が原因とは限りません。

① 胸壁の筋肉への負担

大胸筋や肋間筋などに 負担がかかると、 胸の下部に痛みを 感じることがあります。

② 肋軟骨炎など

肋骨と胸骨をつなぐ 肋軟骨周囲の問題によって、 胸の前面に痛みが生じる場合があります。

③ 肋間神経の痛み

肋間神経に関連する痛みでは、 胸から背中へ 帯状に痛みが広がる場合があります。

④ 乳房の炎症やしこり

乳腺炎や乳房膿瘍、 その他の乳房の病気でも 痛みが起こることがあります。

⑤ 心臓や肺などの病気

胸の痛みには、 心臓や肺の病気が 関係する場合があります。

筋肉を押すと痛みがある場合でも、 重大な病気が除外できる わけではありません。

十、古典では乳根を何に用いた?

伝統的な鍼灸では、 乳根は乳房や胸部の不調に 関連づけられてきました。

  • 乳房の張りや痛み
  • 母乳の分泌が少ない状態
  • 乳房の腫れ
  • 胸部の痛み
  • 咳や息苦しさ
  • しゃっくり

東洋医学では、 気血の巡りや 経絡の状態などを用いて 説明することがあります。

ただし、古典に主治として 記載されていることは、 現代医学で効果が 確認されたことを意味しません。

特に乳腺炎や乳房膿瘍は、 必要な医学的治療を 遅らせてはいけません。

十一、乳根への鍼灸に科学的根拠はある?

鍼灸は慢性疼痛などの さまざまな症状について 研究されています。

一方、 乳根(ST18)単独への刺激で、 母乳分泌の不足や乳腺炎、 乳房の張りを改善できるという 十分に確立した臨床的根拠はありません。

授乳や乳房の症状を対象とした 鍼灸の研究があったとしても、 乳根単独の有効性を 示したことにはなりません。

また、鍼灸は乳房膿瘍の排膿や 必要な抗菌薬による治療を 置き換えるものではありません。

現代医学の観点から整理すると
  • 乳根には伝統的な使用例がある
  • 乳根単独の有効性は確立していない
  • 乳腺炎の治療は炎症・感染の状態によって異なる
  • 母乳量の評価には授乳状況などの確認が必要
  • 胸部への刺鍼には気胸の危険がある
  • 施術を行わない判断も重要

十二、乳根への刺鍼と気胸の危険

乳根は第5肋間に位置する 胸部の経穴です。

深部には胸膜や肺が存在するため、 不適切な刺鍼は 気胸を起こす危険があります。

気胸とは、胸膜腔に空気が入り、 肺がしぼむ状態です。

鍼治療による気胸は、 医学文献でも報告されている 重大な合併症の一つです。

胸部への鍼施術後に注意したい症状
  • 突然の胸の痛み
  • 急な息苦しさ
  • 深呼吸で強くなる痛み
  • 肩や背中の急な痛み
  • 呼吸すると胸が苦しい

胸部への鍼施術後に こうした症状が出た場合は、 気胸などを考慮して 速やかに医療機関を受診してください。

強い呼吸困難や 激しい胸痛、意識障害がある場合は 直ちに119番へ連絡してください。

症状が施術直後ではなく、 時間が経過して現れる場合もあります。

十三、乳房のしこりや皮膚の変化に注意

乳房の張りや痛みがあっても、 原因が授乳による変化とは限りません。

乳房のしこりには 良性のものも多くありますが、 触っただけで 良性か悪性かは判断できません。

乳腺外科などで確認したい症状
  • 新しく乳房や脇の下にしこりができた
  • 乳房の皮膚にへこみやひきつれがある
  • 乳頭が新しく内側へ引き込まれた
  • 血液の混じった乳頭分泌がある
  • 乳房の赤みや腫れが続く
  • 乳頭や乳輪の湿疹が長引いている
  • 乳房の一部だけに痛みが続く

こうした症状がある場合は、 自己判断でツボを刺激せず、 医療機関で確認しましょう。

十四、乳房の張りへの日常ケア

授乳期の乳房の張りについては、 症状の原因に応じた対応が重要です。

① 強く揉まない

乳房を強く揉むことで 組織を傷つけ、 炎症を悪化させる可能性があります。

しこりを押しつぶすような 刺激は避けましょう。

② 授乳を必要に応じて続ける

授乳中の方は、 赤ちゃんの必要に応じた 授乳を基本に考えます。

無理に何度も搾乳して 母乳を出し切ろうとすることは 避けましょう。

③ 冷却と休息

乳房の炎症や痛みがある場合、 冷たいタオルなどで 短時間冷やす方法が 役立つことがあります。

直接氷を当て続けることは避け、 皮膚の状態を確認してください。

④ 専門家に授乳状態を相談する

授乳時に強い痛みがある場合は、 吸着や授乳姿勢などの確認が重要です。

助産師や授乳支援の専門家、 医療機関に相談しましょう。

十五、こんな症状は医療機関を優先

授乳期・乳房の症状で注意したいもの
  • 高熱や強い悪寒がある
  • 乳房が急速に赤く腫れてきた
  • 強い痛みや腫れが続いている
  • 乳房に膿瘍が疑われる
  • 全身状態が悪くなっている
  • 乳房のしこりや皮膚の変化が続く

症状が強い場合や 悪化している場合は、 速やかに医療機関へ相談してください。

また、胸を締めつける痛み、 突然の強い息苦しさ、 意識障害などがある場合は、 心臓や肺の病気の可能性もあります。

そのような緊急症状では 119番への連絡を優先してください。

十六、東洋医学では乳房の不調をどう考える?

東洋医学では、 乳房の張りや痛みについても 気血・陰陽・臓腑・経絡などの 状態を参考にすることがあります。

例えば、伝統的には 気滞、血瘀、痰湿、熱などの 概念を用いる場合があります。

授乳期の不調についても、 疲労、睡眠、食欲、 身体の冷えなどを 合わせて確認することがあります。

ただし、これらは 東洋医学独自の説明体系です。

乳房の張りがあるからといって、 特定の臓腑の病気があると 判断できるわけではありません。

また、東洋医学的な弁証によって 乳腺炎や乳がんなどを 除外することはできません。

十七、鍼灸治療院 寛ぎの施術方針

当院では、 症状のある場所だけでなく、 身体全体の状態を確認することを 大切にしています。

乳房周囲の不調について ご相談を受けた場合も、 まず症状の経過や 医療機関での診断・治療状況を確認します。

必要に応じて、 次のような点も伺います。

  • 症状が始まった時期
  • 乳房の張りや痛みの程度
  • 授乳中かどうか
  • 発熱・赤み・腫れの有無
  • 乳房のしこりや皮膚の変化
  • 授乳や搾乳の状況
  • 月経周期との関係
  • 服用している薬
  • 首肩や背中のこり
  • 睡眠の質と時間
  • 慢性的な疲労
  • 食欲や胃腸の状態
  • 便通や冷え

こうした情報を参考に、 気血・陰陽・臓腑・経絡などの 東洋医学的な視点でも 身体全体の状態を考えます。

ただし、鍼灸の問診だけで 乳腺炎や乳房の病気を 確定診断することはできません。

必要な乳腺外科や産婦人科などの 診療を優先し、 施術の適否を慎重に判断します。

乳根への直接的な刺鍼を 前提とするものではありません。

当院の全身鍼灸

「調和陰陽・疏通経絡・調整臓腑」

気血・経絡・臓腑・陰陽の状態を確認し、 身体全体を東洋医学的な視点から 整えることを目指す施術です。

施術時間:90分程度
料金:11,000円(税込)
美顔鍼付き

※施術内容は体調、安全性、 医療機関での診療状況を考慮して判断します。 乳根への刺鍼を必ず行うものではありません。

※乳腺炎、授乳量の不足、乳房痛などの 改善や治癒を保証するものではありません。

十八、まとめ ― 乳根から考える乳房の健康

乳根は、足陽明胃経の第18穴です。

前胸部の第5肋間、 乳房の下縁付近に位置します。

伝統的には乳房の張りや痛み、 母乳の分泌に関する不調などと 関連づけられてきました。

一方、現代医学では、 授乳期の乳房の張りや痛みには、 乳汁産生、乳腺周囲の炎症、 授乳方法など、 さまざまな要因が関係します。

乳腺炎では、強いマッサージや 必要以上の搾乳が 症状を悪化させる可能性があります。

乳根への鍼灸で 乳腺炎や母乳不足を 確実に改善できるという 科学的根拠も確立していません。

さらに、胸部への不適切な刺鍼には 気胸などの重大な危険があります。

大切なのは、 乳房の変化を正しく理解し、 必要な医療機関での診療や 授乳支援を受けることです。

鍼灸治療院 寛ぎでは、 東洋医学と現代医学の知見を尊重し、 安全性を重視した施術を心がけています。

ACUPUNCTURE CLINIC KUTSUROGI

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※乳房の強い炎症、しこり、 胸痛や呼吸困難などがある場合は、 医療機関での診療を優先してください。

参考資料・医学的情報

1. WHO Regional Office for the Western Pacific. WHO Standard Acupuncture Point Locations in the Western Pacific Region. 乳根(ST18)の標準位置。 WHO標準経穴位置

2. NHS. Mastitis. 乳腺炎の症状と医療機関での対応

3. The Breastfeeding Network. Mastitis and Breastfeeding. 授乳期の乳腺炎とセルフケア

4. NHS. Breast lumps. 乳房のしこりと受診の目安

5. National Center for Complementary and Integrative Health (NCCIH). Acupuncture: Effectiveness and Safety. 鍼灸の科学的根拠と安全性

6. eLotus CORE. Rugen (ST18). 伝統的な使用例と位置の解説。 経穴の伝統的な解説

本記事は一般的な健康情報です。 特定の病気の診断や治療に 代わるものではありません。 伝統医学上の使用例と 科学的に確認された効果を 区別して説明しています。

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