寛ぎブログ

2026.10.23更新

東洋医学・経絡とツボの物語

胃経 拾漆
乳中(にゅうちゅう)

鍼を刺さないツボと、乳頭・授乳の仕組み

足陽明胃経 ST17 / RUZHONG

ツボと聞くと、 「指で押したり、鍼を刺したりする場所」 という印象があるかもしれません。

しかし、東洋医学には、 経穴として名前がありながら、 通常は施術しない場所も存在します。

今回ご紹介する 「乳中(にゅうちゅう)」は、 その代表的な経穴です。

足陽明胃経の第17穴で、 乳頭の中央に位置します。

古典的な経穴解説では、 乳中への刺鍼や施灸は禁忌とされ、 周囲の経穴の位置を確認する 基準点として扱われてきました。

一方、現代医学では、 乳頭は単なる皮膚の突起ではなく、 授乳や感覚に関わる重要な組織です。

今回は乳中という経穴を入り口に、 乳頭・乳輪の構造、 母乳がつくられる仕組み、 授乳中の痛みや乳頭分泌、 安全性について詳しく解説します。

一、乳中とはどんなツボ?

乳中は「にゅうちゅう」と読み、 国際的な経穴番号では ST17と表記されます。

足陽明胃経に属する45穴のうち、 第17番目にあたる経穴です。

「乳」は乳房、 「中」は中央を意味します。

その名前のとおり、 乳頭の中央に位置する経穴です。

ほかの多くの経穴とは異なり、 伝統的な経穴解説では 通常の治療点として使用せず、 位置を定める目印とされています。

乳中の基本情報
  • 名称:乳中(にゅうちゅう)
  • 経穴番号:ST17
  • 所属:足陽明胃経
  • 胃経45穴の第17穴
  • 位置:乳頭の中央
  • 左右の胸部に存在
  • 周囲の経穴位置を定める基準点
  • 通常、刺鍼・施灸は行わない

二、乳中の正確な場所は?

乳中の位置は、 乳頭の中央です。

標準的な経穴位置の説明では、 前胸部の第4肋間、 前正中線から外方4寸の位置が 示されることがあります。

ただし、これは成人男性の 標準的な体表の目安を含む説明です。

乳頭の位置には、 性別、年齢、体格、 乳房の形状などによる個人差があります。

特に乳房の大きさや形状によって、 乳頭が第4肋間に一致するとは 限りません。

乳中を理解するときには、 肋間の番号だけにこだわらず、 乳頭中央という 明確な体表上の位置が重要です。

屋翳(ST15)― 第2肋間↓ 膺窓(ST16)― 第3肋間 ↓ 乳中(ST17)― 乳頭中央 ↓乳根(ST18)― 第5肋間

※足陽明胃経の経穴番号順を 簡略化したものです。 乳頭や乳房の位置には個人差があります。

三、なぜ乳中には鍼を刺さない?

乳中の最大の特徴は、 経穴として存在するのに、 通常は刺鍼・施灸をしない という点です。

一般的な経穴の資料でも、 乳中は刺鍼・施灸を行わず、 胸部や腹部の経穴を 位置づけるための基準点とされています。

古典的な禁忌には、 乳房の組織への刺激に伴う 損傷などへの注意が背景にあると 考えられます。

ただし、その当時の説明を そのまま現代医学的な 合併症の発生率として 読み替えることはできません。

現代医学の観点からも、 乳頭・乳輪には神経や血管、 乳管の開口部などがあり、 不用意な侵襲を加えることは 望ましくありません。

乳中(ST17)の施術上の注意
  • 乳頭中央への刺鍼は行わない
  • 乳頭への施灸は行わない
  • 強い指圧や摩擦を加えない
  • 吸い玉や刺絡などの刺激をしない
  • 自己判断で器具を当てない

乳中は、自分で刺激して 効果を確かめるためのツボではありません。

乳頭や乳輪に痛み、 ただれ、出血などがある場合は、 刺激せず原因を確認しましょう。

四、乳頭と乳輪の構造

乳頭は、乳房の中央付近にある 突出した部分です。

その周囲にある色素の濃い部分を 乳輪(にゅうりん)といいます。

どちらにも感覚神経が分布し、 乳頭には乳管の開口部が存在します。

① 乳頭

乳頭には、母乳を体外へ送り出す 乳管の開口部があります。

また、皮膚の感覚を伝える 神経や、組織の形を変える 平滑筋などが存在します。

② 乳輪

乳輪には皮脂腺などが存在し、 皮膚の保護に関わります。

乳輪の色や大きさには、 個人差があります。

③ 乳管

乳管は、乳腺でつくられた 母乳を乳頭へ運ぶ通り道です。

乳頭の表面には複数の開口部があり、 授乳時に母乳が出ます。

乳頭・乳輪の主な働き
  • 乳頭:母乳が出る開口部を持つ
  • 乳輪:乳頭周囲の皮膚を構成する
  • 感覚神経:吸啜刺激などの情報を伝える
  • 乳管:母乳を乳頭方向へ運ぶ
  • 平滑筋:乳頭の形状変化に関係する

五、母乳はどこでつくられる?

母乳をつくるのは、 乳頭そのものではありません。

乳房の内部にある 乳腺の組織です。

乳腺には、 乳汁をつくる小さな構造である 乳腺胞(にゅうせんほう)が 存在します。

乳腺胞でつくられた母乳は、 乳管を通って乳頭から出ます。

この仕組みには、 複数のホルモンや神経の働きが 関係しています。

その中でも重要なのが、 プロラクチンとオキシトシンです。

六、プロラクチンとオキシトシン

母乳がつくられ、 赤ちゃんに届くまでには、 大きく二つの働きがあります。

① プロラクチン ― 母乳の産生

プロラクチンは、 下垂体前葉から分泌される ホルモンです。

乳腺で母乳をつくる働きに 重要な役割を持っています。

授乳による吸啜刺激は、 プロラクチンの分泌に 関係しています。

② オキシトシン ― 母乳を送り出す

オキシトシンは、 視床下部でつくられ、 下垂体後葉から血液中へ放出されます。

乳腺胞の周囲にある 筋上皮細胞を収縮させ、 母乳を乳管へ押し出す働きがあります。

この反応を 「射乳反射(しゃにゅうはんしゃ)」 と呼びます。

赤ちゃんが乳頭・乳輪を吸う↓ 感覚神経から脳へ情報が伝わる ↓ プロラクチン・オキシトシンの分泌が関与 ↓母乳の産生と射乳が行われる

※授乳に関わる反応を 簡略化した説明です。 母乳量には授乳頻度や乳汁除去の状況、 母体や乳児の状態なども関係します。

七、乳頭の刺激と神経の関係

乳頭や乳輪には、 触れられた感覚を伝える 神経が分布しています。

乳頭周囲の感覚には、 特に第4肋間神経の皮枝などが 重要な役割を持っています。

赤ちゃんが乳頭・乳輪を吸うことで、 感覚情報が神経を通じて 脳へ伝わります。

その結果として 射乳反射などが起こります。

ただし、 授乳時の自然な吸啜刺激と、 鍼や灸による刺激は別のものです。

授乳に神経刺激が関係するからといって、 乳中に鍼を刺せば母乳量が増える ということにはなりません。

八、乳頭が痛くなる原因

乳頭の痛みには、 さまざまな原因があります。

① 授乳時の吸着の問題

赤ちゃんが乳頭・乳輪を 十分にくわえられていない場合、 乳頭に負担がかかることがあります。

授乳中に強い痛みが続くときは、 授乳姿勢や吸着の状態を 専門家に確認してもらうことが大切です。

② 乳頭の亀裂や皮膚の傷

摩擦や乾燥などによって、 乳頭に傷ができる場合があります。

出血や痛みを伴うこともあります。

③ 湿疹や皮膚炎

乳頭や乳輪に かゆみ、赤み、湿疹などが 現れる場合があります。

皮膚炎以外の病気が 隠れている場合もあるため、 長引く症状は診察が必要です。

④ 乳腺炎など

授乳期に乳房の痛みや 赤み、熱感、発熱などがある場合は、 乳腺炎などが考えられます。

強いマッサージや 自己判断による刺激は避け、 医療機関へ相談しましょう。

九、乳頭から分泌物が出るのはなぜ?

乳頭から出る分泌物を、 「乳頭分泌」といいます。

妊娠中や授乳中には、 母乳などが出ることがあります。

一方、妊娠や授乳と関係なく 分泌物が出る場合もあります。

原因には、 乳管の変化、乳管内乳頭腫、 薬の影響、ホルモンの異常、 感染症などがあります。

また、乳がんなどが 原因となる場合もあります。

乳頭分泌がある場合は確認が必要

特に次のような変化には 注意してください。

  • 血液の混じった分泌物
  • 片側だけに出る分泌物
  • 自然に繰り返し出る分泌物
  • 乳房のしこりを伴う
  • 乳頭の形や皮膚に変化がある

これらの症状がある場合は、 乳腺外科などで 早めに診察を受けてください。

妊娠・授乳中以外の乳頭分泌も、 原因を確認することが重要です。

分泌物を確認するために 繰り返し乳頭を強く絞ることは 避けましょう。

十、乳頭の形や皮膚の変化にも注意

乳頭の形は人によって異なり、 生まれつき平らな方や、 内側に向いている方もいます。

それ自体が必ず病気を意味する わけではありません。

しかし、以前と比べて 急に乳頭が内側へ引き込まれた場合は、 注意が必要です。

また、乳頭や乳輪に 湿疹やただれが長く続く場合、 単なる皮膚炎以外の病気を 考える必要があります。

乳房の変化で確認したいこと
  • 乳房や脇の下の新しいしこり
  • 乳頭の新たな陥没や変形
  • 乳頭・乳輪の治りにくい湿疹
  • 血液の混じった乳頭分泌
  • 乳房の皮膚のへこみやひきつれ
  • 乳房の一部に続く痛みや腫れ

こうした変化は 乳がんなどの病気でも みられる場合があります。

症状だけで良性か悪性かを 判断することはできません。

十一、男性にも乳頭の病気は起こる?

男性にも乳頭と乳腺組織があります。

そのため、男性でも 乳頭の痛み、分泌物、 乳房のしこりなどが 現れる場合があります。

例えば、女性化乳房では、 男性の乳腺組織が増大し、 乳頭周囲が張ったり 痛んだりすることがあります。

また、頻度は低いものの、 男性にも乳がんが発生します。

男性だから乳房の病気は 起こらないと考えてはいけません。

しこりや血性分泌、 乳頭の変形などがある場合は、 医療機関で確認しましょう。

十二、東洋医学における乳中の役割

通常の経穴では、 古典的な主治として さまざまな症状が紹介されます。

しかし、乳中は特徴が異なります。

伝統的な経穴解説では、 乳中は周囲の経穴を位置づける 基準点として扱われ、 刺鍼・施灸は禁忌とされています。

つまり、 経穴として存在することと、 施術することは同じではありません。

東洋医学の知識を理解するうえで、 この違いは重要です。

また、乳中が足陽明胃経に属するからといって、 乳頭の病気が胃の病気を 意味するわけではありません。

経絡は伝統医学上の概念であり、 現代医学の乳管や神経と 同一の構造ではありません。

十三、乳中への鍼灸に科学的根拠はある?

乳中は、通常の刺鍼や施灸の 対象とはされない経穴です。

そのため、 乳中への刺鍼によって 母乳の分泌が増える、 乳頭痛が改善する、 乳房の病気が治るという 科学的根拠は確立していません。

授乳や乳房の症状に関して 鍼灸全体を調べた研究があっても、 乳中への直接的な施術の効果や 安全性が証明されたことにはなりません。

母乳の分泌に不安がある場合は、 授乳状況や母体・乳児の状態などを 総合的に評価する必要があります。

乳頭の痛みや乳腺炎などについても、 必要な医療機関での診療を 優先することが大切です。

十四、授乳中のセルフケアで大切なこと

授乳中の乳頭の痛みや 乳房の張りがある場合は、 原因に応じて対応することが重要です。

① 授乳姿勢と吸着の確認

授乳中に乳頭の痛みが続く場合は、 赤ちゃんのくわえ方や 授乳姿勢を確認してもらいましょう。

助産師や母乳育児の専門家に 相談することが役立つ場合があります。

② 乳頭を強く刺激しない

痛みがある乳頭に 強い指圧や摩擦を加えないでください。

乳頭への鍼や灸は行いません。

③ 乳房の炎症に注意

乳房の赤みや熱感、 強い痛み、発熱がある場合は、 乳腺炎などの可能性があります。

自己判断で強く揉むことは避け、 医療機関に相談しましょう。

④ 母乳量の不安は専門家へ相談

母乳が少ないと感じる場合も、 授乳回数や吸着、 赤ちゃんの体重増加など、 確認すべき点は複数あります。

乳頭への強い刺激によって 母乳量を増やそうとするのではなく、 適切な支援を受けることが大切です。

十五、こんな症状は医療機関を優先

乳房・乳頭の症状で注意したいもの
  • 乳房が赤く腫れ、発熱している
  • 乳房に新しいしこりがある
  • 血性乳頭分泌がある
  • 乳頭が新たに陥没した
  • 乳頭や乳輪の湿疹が治らない
  • 乳房の皮膚にへこみやひきつれがある
  • 乳房の痛みが長期間続く

これらの症状は、 乳腺外科や婦人科、 皮膚科などで適切に評価する必要があります。

特に強い発熱や急速に悪化する炎症は 速やかな診察が重要です。

胸痛や呼吸困難は別の緊急性も考える

乳房付近の痛みに感じられても、 心臓や肺の病気が 原因となる場合があります。

突然の強い胸痛、 胸を締めつける圧迫感、 冷汗や息切れを伴う胸痛、 強い呼吸困難などがある場合は、 直ちに119番へ連絡してください。

十六、鍼灸治療院 寛ぎの施術方針

当院では、 症状のある場所だけでなく、 身体全体の状態を確認することを 大切にしています。

乳房周囲や胸部の不調について ご相談を受けた場合には、 まず症状の経過と 医療機関での診断・治療状況を確認します。

必要に応じて、 次のような点を伺います。

  • 症状が始まった時期
  • 痛みの場所と持続時間
  • しこりや皮膚の変化の有無
  • 乳頭分泌の有無
  • 妊娠・授乳の状況
  • 月経周期との関係
  • 服用している薬
  • 首肩や背中のこり
  • 睡眠の質や時間
  • 疲労の蓄積
  • 食欲や胃腸の状態
  • 便通や冷え

そのうえで、 気血・陰陽・臓腑・経絡などの 東洋医学的な視点でも 身体の状態を考えます。

ただし、乳頭や乳房の病気を 東洋医学的な問診だけで 診断・除外することはできません。

必要な医療機関での診療を 優先していただき、 鍼灸の適応を慎重に判断します。

また、 当院の施術では、 乳中(ST17)への刺鍼・施灸は 行いません。

当院の全身鍼灸

「調和陰陽・疏通経絡・調整臓腑」

気血・経絡・臓腑・陰陽の状態を確認し、 身体全体を東洋医学的な視点から 整えることを目指す施術です。

施術時間:90分程度
料金:11,000円(税込)
美顔鍼付き

※施術内容は体調、安全性、 医療機関での診療状況に応じて判断します。 乳中への刺鍼・施灸は行いません。

※授乳量の増加や乳頭疾患、 乳腺疾患などの改善・治癒を 保証するものではありません。

十七、まとめ ― 施術しないことも大切な知識

乳中は、 足陽明胃経の第17穴です。

乳頭の中央に位置し、 経穴として名前がありながら 通常は刺鍼・施灸を行わない 特殊なツボです。

伝統的には、 周囲の経穴の位置を定める 目印として扱われてきました。

現代医学では、 乳頭が授乳に関わる感覚や 母乳の排出に重要な働きを持つことが 明らかになっています。

母乳の産生にはプロラクチン、 母乳の射出にはオキシトシンが 重要な役割を持っています。

一方、乳頭の痛みや分泌物、 しこり、皮膚の変化などには、 さまざまな病気が関係する場合があります。

乳中を強く刺激すれば 授乳の問題や乳房の病気が改善する という根拠はありません。

東洋医学を学ぶうえでは、 ツボの名前や位置を覚えるだけでなく、 施術してはいけない場所を 理解することも重要です。

鍼灸治療院 寛ぎでは、 伝統医学の知識と 現代医学の解剖学・安全性を尊重し、 必要な医療機関での診療を優先しながら、 適切な施術を心がけています。

ACUPUNCTURE CLINIC KUTSUROGI

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※乳頭分泌、しこり、強い乳房の炎症などが ある場合は、医療機関での診察を 優先してください。

参考資料・医学的情報

1. WHO Regional Office for the Western Pacific. WHO Standard Acupuncture Point Locations in the Western Pacific Region. 乳中(ST17)の標準位置。 WHO標準経穴位置

2. Acupuncture Points Reference. ST17 Ruzhong. 乳中の位置・刺鍼・施灸の禁忌。 経穴解説を見る

3. StatPearls. Physiology, Breast Milk. NCBI Bookshelf. 母乳分泌の生理学

4. NHS. Nipple discharge. 乳頭分泌の原因と受診の目安

5. NHS. How to check your breasts or chest. 乳房・乳頭の変化について

6. National Center for Complementary and Integrative Health (NCCIH). Acupuncture: Effectiveness and Safety. 鍼灸の科学的根拠と安全性

本記事は一般的な健康情報です。 特定の疾患の診断や治療に 代わるものではありません。 伝統医学上の使用例と 科学的に確認された効果を 区別して説明しています。

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