変形性膝関節症を正しく知る
膝が痛い、階段がつらい、歩き始めに痛む。
膝の変形や軟骨の変化を医学的に解説し、
理学療法、日常生活の工夫、
東洋医学、鍼灸の役割と限界まで整理します。
変形性膝関節症は、 「軟骨がすり減るだけの病気」 ではありません。
軟骨、骨、滑膜、半月板、靱帯など、 関節を構成するさまざまな組織の変化が 関わる疾患です。
また、レントゲンで変形が見つかったからといって、 必ず強い痛みがあるとは限りません。
治療では、画像上の変化だけではなく、 痛みの程度、歩く能力、日常生活への影響を 一緒に考えることが重要です。
基本となるのは、状態に合わせた運動療法と、 必要に応じた体重管理、生活動作の工夫です。
変形性膝関節症とは?
変形性膝関節症は、 膝関節の組織に徐々に変化が生じ、 痛み、こわばり、動かしにくさなどを 引き起こす疾患です。
加齢に伴って増える傾向がありますが、 年齢だけが原因ではありません。
体重、過去の膝のけが、筋力、 関節の形状、遺伝的な要因などが 関係すると考えられています。
膝関節の中では何が起きている?
軟骨そのものには痛みを感じる神経が ほとんどありません。 変形性膝関節症の痛みには、 骨、滑膜、関節包、周囲の筋肉など 複数の組織が関係すると考えられています。
代表的な症状
症状の現れ方には個人差があり、 画像上の変化の程度と 痛みの強さが一致しない場合もあります。
発症・進行に関わる要因
ただし、特定の要因があるからといって 必ず発症するわけではありません。
似た症状を起こす疾患
特に急な発症や強い腫れがある場合は、 単なる変形性膝関節症として 判断しないことが重要です。
西洋医学ではどう考える?
医療機関では、痛みの発症経過、 腫れ、可動域、歩行状態、 関節の不安定性などを確認します。
問診・身体診察
どのような動作で痛むか、 朝のこわばりの時間、 過去の外傷歴などを確認します。
レントゲン検査
関節裂隙の狭小化、 骨棘、骨硬化などを評価できます。
日本の整形外科診療では、 荷重時のX線撮影が 病態の把握に用いられることがあります。
MRIは必要?
すべての患者さんにMRIが 必要なわけではありません。
半月板損傷、骨折、その他の病態が 疑われる場合などに検討されます。
NICEの診療ガイドラインでは、 45歳以上で活動時の関節痛があり、 朝のこわばりがない、 または30分以内である典型例では、 画像を使わず臨床的に診断できます。 ただし、症状が典型的でない場合は 追加評価が必要です。
- 急に膝が赤く腫れ、強い熱感がある
- 発熱や悪寒を伴う
- 転倒や外傷後に体重をかけられない
- 突然の強い痛みで歩行が難しい
- 膝が大きく腫れ、急速に悪化している
- 膝が完全に動かなくなった
- 原因不明の強い安静時痛が続く
- ふくらはぎの急な腫れや痛みがある
赤く熱を持った膝の急な腫れや発熱は、 感染性関節炎などの可能性があり、 当日中の緊急評価が必要です。
ふくらはぎの腫れに加えて、 息苦しさや胸痛がある場合は、 血栓症なども考えられるため 直ちに救急対応を受けてください。
整形外科で行われる治療
① 運動療法と生活指導
多くの診療ガイドラインで、 運動療法は治療の中心に 位置づけられています。
症状に合った運動を継続し、 必要に応じて体重管理や 生活動作の調整を行います。
② 消炎鎮痛薬
外用の非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs)などが検討されます。
内服薬を使用する場合は、 胃腸、腎臓、心血管系への影響や ほかの薬との相互作用に注意が必要です。
③ 関節内注射
症状や診療方針によって、 ステロイドやヒアルロン酸の 関節内注射が検討されます。
ステロイド注射は短期的な痛みの緩和に 役立つ場合がありますが、 頻回の使用などは慎重な判断が必要です。
ヒアルロン酸注射は日本でも 用いられていますが、 NICEやAAOSは 日常的・一律の使用を 推奨していません。
④ 歩行補助具・装具
杖や膝装具などが 症状や歩行状態に応じて 検討されます。
⑤ 手術療法
保存療法を行っても症状が強く、 歩行や日常生活への影響が大きい場合には、 人工膝関節置換術などが検討されます。
手術は年齢やレントゲンの程度だけで 決まるものではありません。 生活への影響、本人の希望、 期待できる効果とリスクを 総合的に検討します。
理学療法ではどう考える?
理学療法では、 「膝が痛いから膝だけを見る」 とは限りません。
膝の機能に加えて、 股関節、足関節、筋力、歩行、 日常生活での動作を評価します。
運動療法は本当に有効?
NICEやAAOSなどのガイドラインでは、 変形性膝関節症に対する 運動療法が推奨されています。
筋力トレーニングや有酸素運動などは、 痛みの軽減や身体機能の改善に 役立つことが示されています。
ただし、すべての方に 同じ運動が適するわけではありません。 症状、筋力、活動量に合わせた 調整が重要です。
運動を始めると痛む場合は?
運動開始時に一時的な痛みや 筋肉痛が出ることがあります。
しかし、強い痛みや腫れが続く場合は、 運動の負荷が適切でない可能性があります。
無理に続けず、医師や理学療法士に 相談しながら調整してください。
膝のための運動は何をすればいい?
① 膝を伸ばす筋肉の運動
座った姿勢で膝をゆっくり伸ばすなど、 大腿四頭筋を使う運動があります。
② 立ち座りの練習
椅子からゆっくり立ち上がり、 再び座る運動は、 日常生活の機能改善につながります。
必要に応じて手すりや肘掛けを 利用してください。
③ ウォーキング
症状に応じて歩行時間や距離を 少しずつ調整します。
④ 水中運動
陸上での歩行がつらい方には、 水の浮力を利用した運動が 選択肢になる場合があります。
急に強く腫れた膝、 骨折や感染が疑われる状態、 歩行できないほどの痛みがある場合は、 運動を始める前に 医療機関で評価を受けてください。
体重管理は膝にどのくらい大切?
過体重や肥満がある方では、 体重を減らすことが 痛みや身体機能の改善に 役立つ場合があります。
NICEは、体重減少が少量でも 有益である可能性を示し、 5%の減量より10%の減量で より大きな改善が期待できるとしています。
ただし、すべての方が 減量する必要があるわけではありません。 年齢、栄養状態、筋肉量なども 考慮する必要があります。
西洋医学と理学療法の視点を比較
西洋医学の視点
- 関節の病態を評価する
- 骨折・炎症・感染症を鑑別する
- 画像検査の必要性を判断する
- 薬物・注射などを検討する
- 手術の必要性を判断する
理学療法の視点
- 筋力や可動域を評価する
- 歩行・階段・立ち座りを確認する
- 運動負荷を適切に調整する
- 転倒予防を支援する
- 生活機能の改善を目指す
医学的な病態評価と、 理学療法による身体機能の改善は、 互いに補い合う関係にあります。 痛みを管理しながら 無理なく活動を続けられる方法を 検討することが大切です。
変形性膝関節症に鍼灸は有効?
変形性膝関節症に対する鍼治療については、 痛みや身体機能への影響を調べた 臨床研究があります。
米国AAOS
2021年の診療ガイドラインでは、 鍼治療が痛みや機能の改善に 役立つ可能性を示しています。 ただし、推奨の強さは 「限定的」とされています。
米国ACR
2019年のガイドラインでは、 鍼治療を条件付きで推奨しています。
英国NICE
2022年のガイドラインでは、 変形性関節症の管理に 鍼治療やドライニードリングを 提供しないよう勧告しています。
これらの違いには、 対照治療との比較、 効果の大きさ、研究の確実性、 費用対効果などの評価が関係します。
鍼灸によってすり減った軟骨が再生する、 O脚が矯正される、 変形性膝関節症そのものが治癒する、 といった効果は証明されていません。
鍼灸を検討する場合も、 運動療法や適切な医学的管理を 置き換えるものではなく、 効果と限界を理解した上で 判断することが大切です。
鍼灸で目指すこと・できないこと
補助的に目指すこと
- 痛みや不快感への対応
- 膝周囲の筋緊張への配慮
- 身体を動かしやすい状態づくり
- 日常生活の負担に関する相談
- 医療機関との併用の検討
鍼灸で保証できないこと
- 摩耗した関節軟骨の再生
- 骨の変形そのものの矯正
- 進行した関節変形の修復
- 骨折や感染症への治療
- 人工膝関節手術の回避
東洋医学ではどう考える?
東洋医学では、膝の痛みだけでなく、 身体の冷え、疲労、睡眠、 全身の状態なども参考にすることがあります。
伝統的には「痺証(ひしょう)」などの概念を用い、 痛みやこわばりを 身体全体の状態と合わせて捉える場合があります。
また、気血、寒湿、瘀血、 肝腎などの伝統的な概念を 用いて状態を整理することもあります。
「痺証」「寒湿」「瘀血」などは、 現代医学の診断名ではありません。 膝関節の軟骨や骨の変化を 直接証明するものではなく、 東洋医学独自の分類・身体観です。
鍼灸治療院 寛ぎではどう考える?
当院では、 「膝が痛いから膝だけに鍼をする」 という考え方ではありません。
まず、整形外科での評価を 優先すべき状態ではないかを確認します。
確認する主な項目
- 痛みが始まった時期
- 痛む場所と痛みの性質
- 膝の腫れ・熱感
- 膝の曲げ伸ばし
- 歩行や階段での症状
- 立ち上がるときの状態
- 股関節・足関節の動き
- 筋力やバランス
- 仕事や日常生活での負担
- 睡眠・疲労・冷えなど
- 医療機関での診断・治療歴
鍼灸を検討する場合も、 施術による症状の変化や 日常生活への影響を確認しながら、 必要に応じて医学的再評価を優先します。
自宅でできる膝のセルフケア
① 長期間まったく動かさない状態を避ける
症状に応じて休息は必要ですが、 過度な活動制限だけでは 筋力や身体機能が低下する場合があります。
② できる運動から始める
歩行、椅子からの立ち上がり、 膝を伸ばす運動などを 状態に合わせて検討します。
③ 階段やしゃがみ動作を調整する
痛みが強い場合は、 手すりを使う、動作回数を減らすなど、 生活動作を工夫します。
④ 杖の使用も選択肢
歩行がつらい場合は、 医師や理学療法士に 杖の使用方法を相談しましょう。
⑤ 痛みや腫れの変化を記録する
何をすると痛むか、 歩行距離、階段の状態、 腫れの有無などを記録すると、 状態の把握に役立ちます。
変形性膝関節症によくある誤解
「軟骨が減ったら必ず痛い?」
必ずしもそうではありません。 画像上の変化と痛みの強さは 一致しない場合があります。
「膝が痛いなら運動してはいけない?」
多くの変形性膝関節症では、 適切な運動療法が推奨されています。 ただし負荷の調整は必要です。
「ヒアルロン酸注射で軟骨が再生する?」
注射によって摩耗した軟骨が 確実に再生するという 医学的根拠はありません。
「変形があれば必ず手術?」
手術は、痛みや機能障害、 保存療法への反応などを踏まえて 総合的に検討されます。
「鍼灸でO脚がまっすぐになる?」
骨の変形そのものを 鍼灸で矯正できるという 確立した根拠はありません。
変形性膝関節症のよくある質問
膝が痛い場合でも歩いていいですか?
多くの場合、症状に合わせて 歩行を継続することが大切です。 ただし、強い痛みや腫れ、 急な機能低下がある場合は 先に医療機関で相談してください。
温めた方がいいですか?
温めてこわばりが和らぐ場合はあります。 ただし、急な強い腫れや熱感がある場合は、 自己判断で温め続けず、 医学的評価を受けてください。
膝の水は抜いた方がいいですか?
関節液が増えた原因や症状によります。 感染症などとの鑑別が必要な場合もあるため、 医師が診察して判断します。
膝の軟骨は元に戻りますか?
進行した軟骨の変性を 運動や鍼灸で元通りに戻すことは 一般に期待できません。 ただし、軟骨を再生できなくても、 痛みや身体機能の改善を 目指すことはできます。
鍼灸と整形外科は併用できますか?
病状に応じて併用を検討できます。 ただし、鍼灸の推奨は ガイドライン間で一致していません。 運動療法や必要な医学的治療を 遅らせないことが重要です。
手術を考える目安はありますか?
保存療法を行っても 痛みや機能障害が強く、 生活の質が大きく低下している場合は、 人工膝関節置換術などについて 整形外科で相談する選択肢があります。
膝・足に関連する症状・疾患
名古屋市で膝の痛みにお悩みの方へ
鍼灸治療院 寛ぎでは、 膝だけでなく、 股関節や足関節、 歩行や日常生活での負担なども 参考にしながらお身体の状態を確認します。
西洋医学的な注意点を踏まえ、 東洋医学の考え方も参考にしながら、 ご相談をお受けしています。
変形性膝関節症の進行度の診断や 手術適応の判断は、 医療機関での評価が必要です。
鍼灸治療院 寛ぎ 公式サイト 症状・疾患別ガイド一覧参考資料・診療ガイドライン
・NICE
Osteoarthritis in over 16s:
diagnosis and management. NG226, 2022.
NICE 公式ガイドライン
・American Academy of Orthopaedic Surgeons
Management of Osteoarthritis of the Knee
(Non-Arthroplasty), 2021.
AAOS 公式ガイドライン
・American College of Rheumatology /
Arthritis Foundation
Guideline for the Management of Osteoarthritis
of the Hand, Hip, and Knee, 2019.
ACR ガイドライン全文
※本ページは一般的な医学情報の提供を目的とし、 個別の診断や治療を代替するものではありません。 急な強い痛み、腫れ、発熱、 歩行困難などがある場合は 医療機関での評価を優先してください。